No Crystal, No Life.

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・・・

にわかにあたりがあかるくなりました。
 今までポシャポシャやっていた雨が急に大粒になってざあざあと降って来たのです。
 はちすずめが水の中の青い魚のように、なめらかにぬれて光りながら、二人の頭の上をせわしく飛びめぐって、
  ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザア、
  ふらばふれふれ、ひでりあめ、
  トパァス、サファイア、ダイヤモンド。
 と歌いました。するとあたりの調子が何だか急に変な工合になりました。雨があられに変ってパラパラパラパラやって来たのです。
 そして二人はまわりを森にかこまれたきれいな草の丘の頂上に立っていました。
 ところが二人は全くおどろいてしまいました。あられと思ったのはみんなダイアモンドやトパァスやサファイヤだったのです。おお、その雨がどんなにきらびやかなまぶしいものだったでしょう。
 雨の向うにはお日さまが、うすい緑色のくまを取って、まっ白に光っていましたが、そのこちらで宝石の雨はあらゆる小さな虹をあげました。金剛石がはげしくぶっつかり合っては青い燐光を起しました。
 その宝石の雨は、草に落ちてカチンカチンと鳴りました。それは鳴る筈だったのです。りんどうの花は刻まれた天河石と、打ち劈かれた天河石で組み上がり、その葉はなめらかな硅孔雀石で出来ていました。黄色な草穂はかがやく猫睛石、いちめんのうめばちそうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石、とうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶の美しいさきを持っていました。そしてそれらの中で一番立派なのは小さな野ばらの木でした。野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかかった霰石でみがきあげられ、その実はまっかなルビーでした。
 もしその丘をつくる黒土をたずねるならば、それは緑青か瑠璃であったにちがいありません。二人はあきれてぼんやりと光の雨に打たれて立ちました。
 はちすずめが度々宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせわしくせわしく飛びめぐって、
  ザッザザ、ザザァザ、ザザアザザザア、
  降らばふれふれひでりあめ、
  ひかりの雲のたえぬまま。
 と歌いましたので雨の音は一しお高くなりそこらは又一しきりかがやきわたりました。
 それから、はちすずめは、だんだんゆるやかに飛んで、
  ザッザザ、ザザァザ、ザザアザザザア、
  やまばやめやめ、ひでりあめ、
  そらは みがいた 土耳古玉
 と歌いますと、雨がぴたりとやみました。おしまいの二つぶばかりのダイアモンドがそのみがかれた土耳古玉のそらからきらきらっと光って落ちました。
「ね、このりんどうの花はお父さんの所の一等のコップよりも美しいんだね。トパァスが一杯に盛ってあるよ。」
「ええ立派です。」
「うん。僕、このトパァスを半けちへ一ぱい持ってこうか。けれど、トパァスよりはダイアモンドの方がいいかなあ。」
 王子ははんけちを出してひろげましたが、あまりいちめんきらきらしているので、もう何だか拾うのがばかげているような気がしました。
 その時、風が来て、りんどうの花はツァリンとからだを曲げて、その天河石の花の盃を下の方に向けましたので、トパァスはツァラツァランとこぼれて下のすずらんの葉に落ちそれからきらきらころがって草の底の方へもぐって行きました。
 りんどうの花はそれからギギンと鳴って起きあがり、ほっとため息をして歌いました。
  トッパァスのつゆはツァランツァリルリン、
  こぼれてきらめく サング、サンガリン、
  ひかりの丘に すみながら
  なぁにがこんなにかなしかろ。
 まっ碧な空でははちすずめがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァリル、ツァリル、ツァリルリンと鳴いて二人とりんどうの花との上をとびめぐって居りました。
「ほんとうにりんどうの花は何がかなしいんだろうね。」王子はトッパァスを包もうとして一ぺんひろげたはんけちで顔の汗を拭きながら云いました・・・

 

宮沢賢治 

童話「十力の金剛石」より。


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